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「…行こう」
蓮見さんの手をぎゅっと握って立ち去ろうとしたら引き留められた。
「待って。彼、がんばっているみたいだよ。
ほら、ギャラリーがいっぱいいる」
ちらっと蓮見さんの視線の先を見ると、千紘に気がついてスマホを構えている人がたくさんいて、握手を求めようとしている人もいた。
ファンがもうあんなにいるんだ。
『緋奈、俺変わるから。仕事のパートナーとしては最高の女になりそうなんだ』
前に千紘に言われたその言葉が鮮やかに甦ってくる。千紘はあの女性と顔を見合わせて何か話した後、ファンの差し出す手帳にサインをし始めた。千紘は満面の笑顔を見せていた。
いつも部屋で脚本の原稿を前に苦悶の表情を浮かべていた千紘があんなに清々しく笑っている。なぜだか胸のつかえがとれたように私まであたたかい気持ちになった。
「がんばっているね。最高のパートナー見つかったみたいで、本当に良かった」
独り言のように言った私の口元には自然に笑みが浮かんで、それを見ていた蓮見さんはそっと私の腰に手を回して抱き寄せてくれた。
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