1/7
前へ
/25ページ
次へ

 静寂に包まれた公園の横へ車を停める。電灯に照らされた時計を見た。時刻は四時。約束の時間まであと六時間。  今日、俺は、最愛の彼女である明日香と動物園へ行く。猿を見たいという明日香と、明日香を見たいという俺の思惑が一致した。  瞼が重い……昨夜は一時間しか眠れなかったからな。遅刻しては大変だと思い、家を三時に飛び出した。案の定、早く来すぎたが、彼女を待たせるよりはいい。  楽しんでもらうための準備は万端だ。恋愛本を二十冊読み込んだし、後部座席には、猿のヌイグルミをこれでもかと敷きつめた。  冷え込むだろうからと、助手席にはカイロを貼り付けてある。サーモス水筒には手作りの豆乳ココアも入れてきた。  身だしなみも整えた。美容院には毎日三回通ったし、ファッションも、マネキン買いがいいからと、いっそマネキンごと買った。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加