11人が本棚に入れています
本棚に追加
失笑やざわめきが聞こえる。助けを乞うように課長へ視線を向けると、険しい顔で俺の足元を指さしている。危うく踏みつけてしまいそうな位置で、ボタンは出番を待っていた。
ボタンを拾い上げ深呼吸をする。よし、昨日までに暗記した古今東西の漫才を参照した台本。それを披露だ。
「えっと……えー……」
なのに、おしろいを塗られた頭からは、一言もセリフが出てこない。
無言は一番ダメだ……場を繋ぐ言葉を捻り出すため思案するも、浮かぶのは、あの日の明日香の顔と声。
豆乳ではなく、普通のココアにすればよかった……ぬいぐるみではなく手袋を用意すれば……忙しい明日香にもっと気を遣うべきだった……。
今、考えるべきではないことが頭を駆け巡る。
……やはり俺には無理だ。プレゼンも明日香に好かれるのも。
手のひらから、ボタンがこぼれ落ちる。後を追うかのように、一筋の雫が雨のように付着した。
最初のコメントを投稿しよう!