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「ごめん、ごめんね、ジニア、守ってやると誓ったのに、守ってやれなくて」
ひとしきり泣いて、泣き止んだリリーは、クレソンだと名乗った、きこりに
聞かれるまま、今迄の全ての事を話した。
「何てこった、爺ちゃんが死んだばっかりで、悲しい子供達に、、、
それに、何か、盗られたんだろ?荷物、調べて見な」
そう言われて、荷物を調べたが、何も盗られていなかった。
「何も、、」と、言いかけて「あっ、食堂の女将さんに貰った
サンドイッチが無い」と、声を上げた。
「サンドイッチ?そんな物を?」「はい、でも、女将さんが
お肉を、たっぷり挟んでくれた、すっごく美味しそうな物だったんです」
「いくら旨そうだからって、子供を木に変えてまで、盗って行くかね~
全く、世も末だよ」クレソンは、首を振りながら、そう言うと
「とにかく、今夜は、うちに泊まりな、今から森に入れば
夜になってしまう、ここらには、怖い魔物は居ないが
それでも、小さな魔物たちが、悪戯を仕掛けて来るからな」と、言った。
「はい、それでは、お世話になります」リリーがそう言うと
「辛い時でも、ちゃんとお礼が言えるなんて、きちんと躾が行き届いている」と、クレソンは、感心した顔で言った。
家と言っても、ただの小屋だったが、生活する道具は、揃っていた。
その家の周りには、沢山の木や板が、積み上げられている。
クレソンは、その中から、同じ太さの棒を、何本も取り出して
「鉈が、使えるかい?」と、聞いた。
「はい、薪作りは、私の仕事でしたから」リリーがそう言うと
「じゃ、この棒の先を、鉈で削って、とがらせてくれ」
と、見本を作り、後は、リリーに任せ、自分は、横20センチ
縦40センチ位の板を削って、なにやら、文字を掘り始めた。
「出来ました」「そうか、こっちも出来たぞ」
そう言って、クレソンが見せた板には
【国王陛下、お手植えの松】と、彫られていた。
「さぁ、今日はここまでだ、眠れないだろうが、無理をしてでも眠らないと
明日が辛くなるよ」クレソンの言葉に、リリーは頷いた。
身体は、酷く疲れていたが、クレソンが言う様に、なかなか眠る事は出来ない
何度も寝返りを打っているうちに、やっと、少しだけ、うとうと出来た。
朝になった、クレソンは「黒パンと、きのこのスープしか無いけど
食べて行きな」と、リリーの前に置く。
「すみません」胸は一杯で、入りそうに無かったが
それでも無理をして、何とか、飲み込んだ。
クレソンは、先の尖った棒と、縄を持ち、リリーは自分のリュックを背負い
ジニアのリュックを手に提げて、クレソンが彫った板を持って、付いて行く。
「ジニアっ」朝になったら、魔法が消えて、元に戻っているんじゃないかと
微かな希望が有ったが、ジニアは、松の木のままだった。
クレソンは、リリーが作った杭を、木の周りに打ち込み、縄を張って
【国王陛下、お手植えの松】と、彫った板を、杭の一つに打ち付けた。
「こうしておけば、誰かに切られる事は無い、安心しな」
クレソンはそう言うと「これから、小母さんの所へ行くんだろ?
気を付けて行くんだよ」と、言い「俺も、時々、ここに来て
妹の事を、見てやるからな」と、言った。
「有難う、小父さん、ジニアの事、宜しくお願いします」
リリーは、そう言うと、何度もジニアを振り返り、山道へ消えた。
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