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4章 キャンプの夜
高3にしては、幼い感じがするのは身長が高くないからかと岡田は前に立っている古川祐司を見て思った。職員室に呼び出されて緊張しているようだった。
「二年生のキャンプの時、夜に太田さんと二人きりでテントにいたって本当?」
「はい。あの、すみません。夜に女子のテントに遊びに行って、先生に見つかりそうになったので近くのテントに逃げ込みました。そしたらそこに太田さんが一人でいました。」
「女子のテントに遊びに言ったのか。」
「はい、すみません。」
「テントに太田が一人って?テントは三人居たはずだけど、他の女子はどこに行ってたの?」
「わからないですけど。太田さんは一人でした」
「二人で何してた。」
核心を突く質問であったのか、古川は緊張で頬を赤らめる。
「先生に見つかりそうだっていう話をしてたんですが、太田さんが突然服を脱ぎはじめたので、そういうつもりはないと僕は何度も言いました。」
どうやら一生懸命言い訳を言っているようだか、岡田は少し狼狽えた。前田からは、太田がキャンプで男子をその気にさせて告白させた挙げ句、振ったと聞いた。その気にさせるとは、服を脱ぐことかと思った。岡田が黙っていると古川は話しを続けた。
「他の人も入ってきたので、全部脱いでないですけど。」
深いため息をついて岡田は安堵した。事に及んでないとしても、太田が服を脱いで古川を誘ったことは本当のようだ。
「その後、太田に告白した?」
「あー、はい。……断られましたけど。テントでは誘ってきたのにな~と思いました。」
古川は、先生は、そんな事まで知ってるのかと言いたげな顔をした。断られたが、まだ太田に未練があるようだ。岡田は、古川が女子のテントに遊びに行ったことを注意して返してから、すぐに太田を呼んだ。
太田がやってきた。入れ替わりで古川に会ったはずだか、動揺することもなく岡田の前に立った。今、二人の関係は続いてるのだろうか。
「去年のキャンプの事だけど。」
「え?あ、はい。」
太田は少しびっくりしたようだったが落ち着いている。
「男子と二人で夜テントにいた?」
「あー、はい。話をしました。」
なんだそんな事かという反応だ。
「他の女子達は、どこにいたの?」
「遊びに行きました。私も誘われたんですが、体調が悪くて断りました。」
「ということは、指導しなければならないのは、テントから出ていった女子達になるな。」
太田は緊張する様子もないが、岡田は恐る恐る聴いた。
「服脱いだって聞いたけど‥」
「あー、体調悪かったんで、沢山着こんだんで、起きて一、二枚脱ぎました。」
それが何か?という感じで答えた。岡田は少し安心したが、一応確認のため聞いた。
「下着見えるくらい脱いでない?」
太田は、初めてびっくりした顔をして、手を自分の顔の前でぶんぶん振った。
「そんなことないです。何枚も着こんでたので。」
どうやら誘われたというのは古川の勘違いだったようだ。悪い噂を流された太田が可哀想な気もした。
「二人で話してたら、いい雰囲気になったりした?」
「いいえ、なってません。それに、あっちはそんなつもりはないと連呼してました。」
「うん、でも後で告白されたんだろ。なんで断ったの。」
「少ししか話してないのに、告白するなんて軽い人だと思って断りました。」
そんなことないよ。相手も軽い気持ちで告白したのではないだろうと、岡田は古川をフォローして、太田を返した。岡田は、パソコンでこの件のファイルを作成し始めた。すると、最近のファイルに太田の名前があることに気づいた。体育祭の練習中の痴漢の件だ。痴漢といっても、身体を触った訳ではなく、ジロジロ見られたということである。その被害者が太田だった。これは、ある男子生徒から聞いたのだが、三年生がフォークダンスの時、後ろに立っていた男子生徒に腰をジロジロ見られて、太田が嫌がっていたということだった。ジロジロ見ていたのは河野健太という眼鏡をかけた生徒である。担任に河野のことを聴いてみたら、男女共に人望があり現在容姿端麗な女子生徒と交際中であるということだった。
「河野君はそんなことをする子じゃない。」
河野は担任の先生からも人望があるようだった。とりあえず、河野を呼び出し痴漢の件を聞くと、あっさりと認めた。河野にどんなつもりで太田を見ていたか聞いたら、
「そういうつもりでした。」
頬を紅潮させて力強く答えた。いや、誤解されそうな言葉である。詳しく聞くと、本気で好きだったという意味だったらしい。河野には、太田に謝るよう説教した。太田は思わせ振りな態度をとるんだろうと思った。
「太田とは、話したりするの?」
「いいえ、見ているだけです。」
やっぱり、河野という生徒も気をつけて見てないといけないなと岡田は思った。
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