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6章 被害者
ある日の放課後、
「先生、太田の被害者を連れてきました。」
意気揚々と前田が背の低い女子生徒を連れてきた。
「被害者?」
「永山さんには、他校に彼氏がいるんですけど。」
連れてきた女子生徒の名前は、永山というらしい。色の白く、おさげの髪型は真面目さを表しているようだった。永山は、見かけによらず他校に彼氏を作っているらしい。
「永山恵美です。この間、彼氏とデート中に、太田さんとすれ違ったら、彼氏が私を置いて太田さんについていったんです。」
状況を説明したが、永山自身でも納得いってない感じである。
「他校にいる彼氏とは、いつから付き合ってるの?」
「中学の同級生で、一月前から付き合ってます。」
デート中に彼氏が、他の女の後をついていくとは、どういうことだ。岡田が状況を把握しようと考えているとと、周りかざわざわとしてきた。いいつのまにか5、6人の生徒達が岡田の机を囲んでいた。前田が連れてきた野次馬のようだった。
「その日の事を詳しく教えて。」
野次馬の生徒達と違い、永山は神妙な顔で話しを始めた。
「夏休みに、街に遊びに、二人で原田橋の近くを歩いてたんです。」
「彼氏は他校だっけ。」
「西高校です。」
西高は一丸高のような進学校ではない。永山は西高の生徒とは、顔が良くてつきあっているのだろうか。
「彼の名前は?」
「児島悠人です。」
永山は話を続けた。
「原田橋近くで信号待ちをしていたら、反対側に太田さんが来ました。青に変わったので横断歩道を渡っていると、隣にいた彼氏が急にいなくなって、後ろを振り返ったら、太田さんの後を付いていってたんです。」
「びっくりして、何してるの!って叫んだら、彼が慌てて戻ってきて、太田さんは逃げるように去っていきました。」
「彼氏と太田は知り合いなのかな?」
永山恵美は忌々しそうに、
「彼氏に太田さんとの関係を問い詰めたら、中学の時に同じクラスだったみたいで、電話で一度話したことがあるそうです。」
「それだけ?」
「はい、。」
「太田はどんな格好だったの?」
「ピンクのシャツにジーンズ履いていて、髪はパーマみたいになってました。」
シャツということは、肩でも露出してたのだろうか。それに校則違反のパーマをかけたのだろうか。
「シャツはどんな感じのかな。」
「長袖のチェックのシャツです。」
長袖なら露出はしてないはず、岡田は、安心したがまだ疑問は残った。
「パーマは、どんな感じの?」
「映画の魔法学校の女子生徒みたいな。」
岡田は、有名な魔法映画シリーズの生徒を思い出した。ということは、かなりきつめのパーマだったんだな。
「彼は、その時太田と話してたの?」
「私は聞こえなかったんですが、太田さんから話しかけられたって言ってました。」
太田は、児島とどこに行くつもりだったんだろう。大きな駅の近くである。
「太田は彼氏とどこに行くつもりだったのかな。」
「そこは、児島君の家が近くにあって……。」
不穏な表情を浮かべて永山は言葉を濁した。彼女と歩いてるときに、他の女についていくことなど、よほどの美貌か、男が節操がないかのどちらかだろう。あの地味な太田からは想像できないが、パーマかけて化粧でもしていたのか。とりあえず、今の話は、永山恵美の推測にすぎない。岡田は太田を職員室に呼んだ。
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