1章 噂

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1章 噂

日曜日の朝に携帯電話がけたたましく鳴った。 「 岡田先生助けてください。」   久しぶりに聞いた声だった 。岡田は高校の体育教師である。気がつくと40歳になっていた独身貴族である。 「一高で一緒でした英語の清水です。」   一丸高校、略して一高は県内随一の進学校である。当時の一高で英語を教えていた清水先生は、いつも自信満々で、三角定規でよく生徒の頭を叩いていた。もう8年前の話だが、今なら問題になるだろう。 「 どうされたんですか。」 「 一丸高卒業生の太田のことです。」   名前を聞いて、無愛想で地味な女子生徒を思い出した。 太田は、 容姿端麗とは言い難い生徒だったが、意外によくモテた。 「 太田がどうしたんですか。」  清水先生はかなり焦ってるようだ。 「 日曜に職場の結婚式に参加したんです。そこで、太田の両親と同じテーブルになって‥」  嫌な予感がした。 太田は自分で問題を起こすような生徒ではなかったが、いつも揉め事の渦中にいた。 「 私はどうしても我慢できなくて、太田の両親に聞いてしまったんです。」 「 何をですか。」  「 どういう育て方をすればあんなにモテる子になるんでしょうと。」  よりによって結婚式で聞く話題ではない。 「 太田の両親が、それを聞いて激怒したんです。 私は岡田先生の話を鵜呑みにしただけですので、後はよろしくお願いします。」  一方的に電話は切れた。 状況が把握できないうちに 知らない番号から電話がかかってきた。 電話を取るとヒステリックな女性の声がした。 「 一丸卒業生の太田麻里子の母ですけど、岡田先生ですか。」 「 はい、そうですが。」 「 清水先生から聞きました。私の娘の悪い噂を流したのは貴方ですか。」  どこから説明すればよいだろうか、岡田は太田麻里子との出会いを思いだした。  
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