嵐のような晴天でした

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 今日は朝から学校中が妙に騒がしかった。 「ねー、しってる? 2年の××先輩が金曜日に屋上から飛び降り自殺したらしいよ」 「えっ、そうなの? 知らなかった……」  理由はこれだったらしい。その名前も、みんな顔ぐらいは知っている賑やかな有名人だ。話したことがなくても、なんとなく、心に小さな穴が空いたような気分になる。 「意外だよねー、……明るい人だったのに」 「人気者でも悩みくらいあったんじゃない?」  そうは言っても所詮は顔しか知らない他人事だ。私も菜那も与えられた話題に乗って、気分をそれっぽく盛り上げているだけだ。 『ねぇ』  何か、微かに声が聴こえたような気がする。何処から聴こえたのかは全くわからなかった。 『ねぇってば』  今度ははっきりと聴こえた。頭の中に響いている、ような気がする。 『ばぁっ』 「うわぁぁぁぁぁぁ」  声と同時に、愉快な表情をした半透明の女の子が上から顔を出した。もっとも、私にとっては恐怖でしかなかったが。 「えっなになにどうしたの!?」  菜那には見えないらしい。訳がわからない。恐怖と驚きで腰が抜け、言葉を返そうにもただぱくぱくと口を動かすしかできない。 『、そんなに驚く?』 「……ゆ、雪奈紗和、先輩」  絞り出すように声を出す。目の前でバツが悪そうに謝っている半透明人間の顔は、話題の当人そのものだった。 「で、本当に紗和先輩なんですね?」 『そうだよー、理解が早くて助かるなぁ』  放課後、誰も周りにいないことを確認してそれに話しかける。どうやら本当に紗和先輩の幽霊、らしい。 「浮いてるし透けてるし、信じるしかないじゃないですか」 『なんでそんなに嫌そうなのー』  先輩は能天気に口をとんがらせてみせる。初めて話す相手とよくもこんなに親しげに話せるものだ。 「どうして、私なんですか?」  どうして私だけに見えるのか。どうして知り合いでもない私に話しかけたのか。全部含めての「どうして」だ。 『その人に話しかけようと思ったら誰にでも見えるんだろうけど、私と関わりのない人が良かったから。ちょうど私の事話してたみたいだし~』  つまりは、くじを引くようにたまたま私だった、ということか。もっとも、それが当たりなのかハズレなのかはまだわからないが。 『あのね、お願いがあるの。私がいなくなった世界を見てみたいけど、怖いから付き合ってくれないかな』  『一生のお願い!』なんて笑えない冗談も言っていたけれど、冗談というには真剣な表情だったものだから、つい頷いてしまった。
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