嵐のような晴天でした

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 まずは先輩のクラスに行くことにした。 『ひゃー、ドキドキするねー!』  さっきの真面目な眼差しはどこに行ってしまったのか、緊張感のない声がふわふわと浮いている。 「なんでそんなに楽しそうなんですか……。こっちは先輩の教室に行くんで緊張しまくってるっていうのに」 『あはは、頑張れー』  ケラケラと笑っている。ヒドイ、完全に他人事である。  大きく深呼吸する。先輩は一応隣にいる。 「すみませーん……」  教室を覗き込む。放課後だからか、数人しかいない。「誰か来た」「1年生かなー?かわいー」「私きいてくる」とテンポのいい会話が聞こえてくる。 「どうしたの?誰かに用事?」  出てきてくれた人がにこにこと優しく対応してくれる。しまった、なんで言えばいいだろう。助けを求めて、先輩に目で訴える。 『えーっと、シャーペンシャーペン!紗和先輩にシャーペンを貸してたからって』 「紗和先輩に、シャーペンを貸していたので……その、取りに」  あとで考えるとずいぶん苦しい言い訳だった。学年も部活も違うのにシャーペンの貸し借りなんてする場面がない。 「紗和の……。そっか、多分もうここには無いと思うけど、一応見てく?」 「ありがとうございます」  紗和先輩の名前を出した途端表情が翳る。同じクラスだ、友達だったのかもしれない。私、無神経だったかな……、3日前に亡くなった身内を抱えている人たちの顔を見て回るなんて。もう了承してしまったのだからやめることはできないけれど、今更ながらそんなことを思う。先輩は今、どんな表情をしているのだろうか。私からは見えなかった。  花が置かれ目立っていたから、先輩の席はすぐにわかった。遺品を漁るような真似は気が引けるが、おそるおそる、机を覗き込む。机の中は空だった。先輩が亡くなってから3日経っているし、回収されているのも当たり前といえば当たり前。なんとなくホッと息をつき、挨拶をしてから教室を出た。  次に先輩の家に行った。インターホンを鳴らす。すぐには出てこなかった。先輩はお母さんと会うだけでいい、と言っているから、会うことが目的だ。しばらくして出てきたおばさんは、はっきりとした美人で先輩とよく似ていた。しかし、見るからにやつれていて、訪問者に慣れた対応はとても痛々しい。目を合わせたら口からは何も出てこなくて、目を逸らし、ありきたりな挨拶だけして、逃げるようにしてその場から離れてしまった。
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