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「今回は、ただの帰省。新学期までには学校に戻らなくちゃ」
「そんな」
「大時計が故障したって聞いて、様子を見に来ただけなんだ。でも、君が元気そうで安心したよ。村の人たちも困ってるだろうし、また動いてくれると助かるんだけど」
機嫌を伺うようなオリバーの打診に、エリザベスは返事をしない。ここで下手に口を挟んだら確実に塔の上からダイブさせられる気がして、スライムは大人しく縮こまっていた。
螺旋階段の終点は小さな踊り場になっていて、外に繋がるらしき扉がある。オリバーは息を整えながら、試験管を胸ポケットに戻した。
「カメ吉、吹き飛ばされたくなきゃそのまま頭下げててね」
彼が扉を開けると、冷たい風が隙間からドウッと吹き込んでくる。
外の眩しさに慣れた目に映ったのは、絶景と言うには殺伐とした景色。村の北側には、なだらかな丘に延々と墓標が続いていた。
「あの墓……村人の数よりずっと多いよな?」
「人の寿命と村の歴史を比べれば、当たり前じゃないか」
見慣れた風景だからかオリバーは、広大な墓地を懐かしそうに眺めている。金色の髪が、湿った土と草の匂いのする風になびいていた。
「ねぇオリバー、感じるでしょう? みんな、貴方が帰ってきてくれて喜んでいるわ」
エリザベスの声は、頭上の巨大な鐘の内側から聞こえてくる。オリバーはその真ん中を見上げ、「そうだね」と呟いた。
「なあ、みんなって、誰なんだよ……?」
村には、オリバーの帰省を喜んでいる人などいないように見えた。むしろ、誰もが彼を忌避していた。
スライムの疑問に少年は、困った顔でただ、微笑んだ。
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