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「ほんとに止まっちゃってるなぁ」  文字盤がはっきり見える距離に近づいたオリバーは、時計塔を見上げて首を傾げた。  汽車の駅から田舎道を歩くこと半時間。塔はずっと前方に見えていたが、その針は零時ちょうどを差したまま、進んでいない。 「昔は動いてたのかよ、これ」  スライムが尋ねると、少年は涼しい顔で「去年まではね」と答えた。  時計の針はオリバーの身長ほどもありそうだ。それがどうやって、ひとりでに規則正しく動いていられるのだろう。 「いったいどんな魔法で──」 「オリバー!?」  スライムの疑問は、突然の大声に遮られた。  声の方を見ると、オリバーと同じ年恰好の少女がこちらを凝視している。 「お、友達か?」  オリバーがスライムに答える暇はなかった。振り向いた彼と目が合った少女は、絹を裂くような悲鳴をあげて走り去ってしまったのだ。 「ひいっ!」 「まさか、オリバー?!」 「オリバーが帰ってきたぁ!!」  少年の姿を見た村人たちは一様に、その顔に驚愕と恐怖を浮かべて彼を避けた。路地を歩けば次々に鎧戸を閉められ、広場からは蜘蛛の子を散らすように人影が消える。  まるで悪魔か病原菌の扱いだ。当の本人は、気だるげな表情で「休業」の札が斜めに出された商店をぼんやりと眺めている。 「お前は一体、故郷(ふるさと)で何をしでかして街に出たんだよ……?」  スライムがおそるおそる聞くと、オリバーは小さくため息をつき、肩をすくめた。 「向こうから呼び戻しといてさぁ、失礼だよね」
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