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煉瓦造りの塔の内部には、金属製の歯車と連結棒が複雑に噛み合っている。オリバーはその中心部を見上げ、大人びた表情で呟いた。
「たまには壊れないとさ、みんなにとっては『壊れないのが当たり前』になっちゃって、壊れないために働いてる人がいるってこと、忘れちゃうみたい」
「それでクビになったのかよ」
「うん。時計守を税金で雇ってることに、文句がついたんだって。錘の巻き上げくらい、役場仕事の片手間でできるだろってさ。で、父さんが死んだ時に、僕はお役御免で無職の孤児になっちゃったわけ」
「ひでえ話だな」
「だよね」
オリバーは肩をすくめ、手の届く歯車の表面を指先で払った。
「で、お前は失業したから、街に出て魔道士学校に入ったのか?」
「まぁ、ずっと魔道士に憧れてたから、よかったんだけどね」
壁には細長い窓が幾つもとられ、中は案外に明るい。オリバーに払われた埃は、帯状に差し込む午後の陽光に輝いていた。
「人間ってさ、自分が得することにはお金も労力も払うけど、みんなが損しないためには小銭も払いたくないものなんだよね」
「勝手なやつらだ」
「この時計が止まったら、みんな困るのになぁ」
薄く笑ったオリバーに、スライムは、さっき見た村人たちの様子を思い出した。
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