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「もしかしてお前、クビになった腹いせに、村で放火でもしたのかよ」
「まさか」
「じゃあ、大時計が壊れるように、歯車に細工してったとか……」
「そんなことしないよ。だいたい、この時計を動かしてるのは歯車じゃない」
「はぁ? それってどういう──」
「おーい!」
スライムが言い終わらないうちに、オリバーがスゥッと息を吸い込んで大声を出した。
「エリザベス! 起きてる?!」
少年の声が、埃の光る縦長の空間に反響する。
スライムは辺りを見回した。中心に垂れる錘。歯車を囲むように内壁に沿って廻らされた階段。そのどこにも、人の姿などない。
それなのに。
「やっと帰ってきたのね、オリバー」
どこからか、若い女の声がした。
驚愕したスライムの上で、オリバーはまっすぐに、塔の最上部を見上げている。
「待っていたわよ」
その声は塔内に反響し、四方八方から聞こえてくる。まるで、時計塔そのものが話しているようだ。
オリバーは少し困ったように眉尻を下げ、それでもなんだか嬉しげに、笑顔で応えた。
「ただいま」
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