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開いた口が塞がらないスライムを、試験管ごとオリバーが持ち上げた。
「この子はカメ吉。よろしくね、エリザベス」
「カメ吉……?」
女が眉をひそめた気配がする。スライムは緑色の体を左右に震わせた。
「いやそんな、ダセェ名前じゃねえし」
と言ったものの、他に名前などない。名乗りに困って沈黙したスライムに、オリバーは声の主を紹介した。
「彼女は大時計の精、エリザベスだよ。妖精というか本体というか……とにかく僕のひいおじいちゃんより前から、ここにいる」
「ババアじゃねぇか」
思わずそう呟くと、試験管のまわりの気温が一瞬でぐんと下がった。
「オリバー。そのミドリムシ、上に持っておいで」
「はぁい」
オリバーはエリザベスに良い子の返事をして、四角い螺旋階段を上り始めた。
「ちょ、待てって、おい、オリバー!」
時計塔のてっぺんにある巨大な鐘。この階段はそこへ続いているのだろう。そんな所から地面に落とされたらと考えるだけで、身が縮む思いだ。
慄くスライムに構わず、オリバーはゆっくりと段を上がっていく。
「久しぶりに上ると、息が切れるなぁ」
「一年経ったのに、貴方あんまり成長してないものね。長身の美青年になって帰ってくるかと期待してたのに」
「次に会う時までにはもうちょっとがんばるよ」
「え?」
エリザベスの心が、つまり塔内の空気が、ストンと縦に揺れた。
「オリバー、帰ってきたんじゃないの?」
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