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1.
「で……っかい時計塔だなぁ!」
村の入口から斜め上を眺め、スライムは叫んだ。
大きな建物なら、彼が生まれた街にもあった。煉瓦造りのビル、立派な教会や学校。けれど、畑と平家しかない田舎の村で、その時計塔は異様に大きく見える。
試験管の口から緑色の体を乗り出しているスライムを、子どもの声がたしなめた。
「カメ吉、あんまり興奮すると落ちるよ」
「うるせえやい、これが興奮せずにいられるか!」
「地面に落ちて草と土まみれになっても、僕はもう取るの手伝ってあげないからね」
白けた顔でそう言い、彼は自分の胸ポケットに挿した試験管をパチンと指で弾いた。
住まいの円筒が揺れ、ゼリー状の体がブヨヨンと震える。スライムは「あわわ」と呟き体勢を整えると、顔(らしき部分。目と口の孔がある)を上げて抗議した。
「ふざけんな、オリバー! 俺様を怒らせるとなぁ、左腕に封印されし黒龍が」
「はいはい、そういう寝言は腕ができてから言って」
「てめえが俺様をこんなふうに作ったんだろうが! このポンコツ魔道士!」
オリバーは金色の髪を揺らして首を傾げる。
「どうしてちゃんと亀にならなかったんだろうなぁ。徹夜で勉強して試験に行ったのに」
「バカか! その徹夜が失敗の原因だ!」
「てゆうか、カメ吉。自分が失敗作だって、認めちゃっていいの?」
「俺様が失敗作なわけねぇだろが!」
「だよね、僕もそう信じてるよ」
表情を変えず、彼はぽつりと呟いた。
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