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「で……っかい時計塔だなぁ!」  村の入口から斜め上を眺め、スライムは叫んだ。  大きな建物なら、彼が生まれた街にもあった。煉瓦造りのビル、立派な教会や学校。けれど、畑と平家しかない田舎の村で、その時計塔は異様に大きく見える。  試験管の口から緑色の体を乗り出しているスライムを、子どもの声がたしなめた。 「カメ(きち)、あんまり興奮すると落ちるよ」 「うるせえやい、これが興奮せずにいられるか!」 「地面に落ちて草と土まみれになっても、僕はもう取るの手伝ってあげないからね」  白けた顔でそう言い、彼は自分の胸ポケットに挿した試験管をパチンと指で弾いた。  住まいの円筒が揺れ、ゼリー状の体がブヨヨンと震える。スライムは「あわわ」と呟き体勢を整えると、顔(らしき部分。目と口の(あな)がある)を上げて抗議した。 「ふざけんな、オリバー! 俺様を怒らせるとなぁ、左腕に封印されし黒龍が」 「はいはい、そういう寝言は腕ができてから言って」 「てめえが俺様をこんなふうに作ったんだろうが! このポンコツ魔道士!」  オリバーは金色の髪を揺らして首を傾げる。 「どうしてちゃんと亀にならなかったんだろうなぁ。徹夜で勉強して試験に行ったのに」 「バカか! その徹夜が失敗の原因だ!」 「てゆうか、カメ吉。自分が失敗作だって、認めちゃっていいの?」 「俺様が失敗作なわけねぇだろが!」 「だよね、僕もそう信じてるよ」  表情を変えず、彼はぽつりと呟いた。
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