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「いっちゃん。コーヒー置いとくね」 「ん」  作業に集中している時の壱琉は、声も目線も返さない。が、今は資料を読み込んでいる時間だから、短く応答があった。  飲み物のためにスペースが空けられているサイドテーブルにカップをそっと置くと、大きな手がすぐにそこに伸びる。 「美味い」  チカが丁寧に淹れたコーヒーを、満足げに飲んでくれている。  よし、お掃除とコーヒーはオッケー。次はお買い物だ。  今は午後二時。壱琉は夕方まで作業に没頭するだろうから、ゆっくり夕食の支度ができる。 「さてさて、今日の夕飯は何にしようかなー?」  好き嫌いが多い壱琉のため、できるだけバランスの取れた食事を提供したいから、献立には気を使う。  父親が早逝し、女手ひとつで壱琉を育てた料理上手な母親は上手く工夫して彼に食べさせていたけれど。今は持病の治療のために関西の親類のもとに行ってしまったから、幼少時から宮城家で一緒にご飯を食べていたチカが、彼女からキッチンを預かっている。  大学に入学後、両親の許可を得て、週の半分は宮城邸に泊まり込みだ。
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