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「やっぱり言えなかったぁ」
チカって、こんな意気地なしだった?
「このままじゃ、だめだ。わかってるのに、いざとなったら勇気がしぼんじゃうんだよ。うわーん、どうしたらいいのっ?」
自室の隅で頭を抱え、髪を掻きむしる。
壱琉が絹糸のようだと褒め、いつも優しく撫でてくれる薄茶色の髪がボサボサだ。
「あああぁ」
情けない声を漏らしながらチカが視線を伸ばしたのは、PCデスク。綺麗に整頓された卓上の端に、PC作業とは無縁と思われるものが乗っている。シンプルな白い封筒だ。
おもむろに立ち上がり、手に取る。
ドイツ語で書かれたそれは秋田正親宛で、差出人の住所はオーストリアのウィーン。秋に入った頃からやり取りを続けてきた件の最終的な内容が、そのエアメールには綴られている。
これにチカが返信すれば、主なやり取りは終了だ。
「ほんとは、わかってる。あーあーあーあー、いつまでもうだうだと言ってる場合じゃないんだよ。明日には先方にエアメールを送らないといけないし、今週中にはいっちゃんに宣言しなくちゃ」
壱琉への宣言内容。それは、パティシエの修業のため、ウィーンに旅立つこと。
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