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「でも、いっちゃんと肩を並べて歩ける男になるためとはいえ、海外修業は長期だからなぁ。遠距離恋愛、大丈夫かな?」
作家になるという自分の夢を叶えて、壱琉は、日々、邁進している。その壱琉につり合う人間になりたいチカは、大学を中退することを考えていた。
菓子職人になる夢を持つ彼は、祖父の知人の紹介で、既に理想の修業先を見つけている。修業先はウィーンの老舗コンディトライ。行けば、最低でも五年、長ければさらに二、三年は現地にとどまることになるだろう。
渡欧の件を壱琉にどう切り出すか。そのタイミングについて、もう、ひと月以上は悩み続けている。
日本とオーストリア、国を隔てての遠距離恋愛がどうなるのか。物心ついた頃から壱琉ひと筋だったチカは、彼への恋心が揺らぐことなどないと断言できるけれど。果たして壱琉の反応は——。
「いっちゃん、チカの決意、どう思うかな? どう言うかな? というか、チカがいない間、あの人、大丈夫かな? 何せ、〝あの、いっちゃん〟だからなぁ。いろんな面で心配。生活能力とか! 黙って歩いてるだけで女性が寄ってきちゃうフェロモン体質の問題とか!」
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