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うーん。少しだけなら、このままでもいいかな?
とことん壱琉に甘いチカの思考が、わがままな恋人を甘やかす方向に傾いた。
「とっくに着いてんのに、突っ立ったまま、いつまで経っても俺の名を呼ばなかったお前が悪い。そのせいで、雑音の発生源が五人にまで増えたんだからな」
え? チカが到着した時から、いっちゃんを囲む女の人は五人でしたけど?
望まない状況で自分を待っていてくれたことはわかったが、チカは遅刻していない。女性たちの人数云々には関与していないから、壱琉のこの言いようは理不尽だ。
ただそこにいるだけで女性を惹きつけてしまうフェロモンボンバーな壱琉に、大方の責任があるのでは?
「いっちゃん? 女性に対して雑音ほにゃにゃらー、なんて失礼な比喩をしちゃ、だめだよ。それから、お待たせーっ。早くレストランに行こ? チカ、お腹すいちゃった!」
けれど、諸々の思いをチカは一つも口にしなかった。
振り向けば、先ほどまで壱琉が立っていた場所には誰もいない。
自分が来たことを知った壱琉が追い払ったのか、オープンすぎる男同士のハグに毒気を抜かれたのか。どちらにしても、チカを気落ちさせていた存在はすっかり消え失せている。
しかも、今、壱琉が希少な笑みを惜しげもなく見せているのは自分だ。
とても綺麗な壱琉には、子どもっぽい自分などより華やかな女性のほうがお似合いなのだろう、という、さっきまでのしょんぼりは全てどうでもよくなっていた。
いっちゃんのためを思ったらチカは身を引くべきなんだけど。でもでも、チカだって、いっちゃんを好き! 大好きなんだもんっ。
いっちゃんがチカを特別に見てくれてるうちは、別れない。
いくらネガティブ思考にはまっても、ぜーったいに! 別れませんっ!
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