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 壱琉いわく、じいさんが趣味で建てた無駄にデザインに凝った骨董建築、宮城邸。神戸や横浜の異人館さながらの趣を感じさせる西洋館であるのに、自分のプラモデルコレクション以外は適当な扱いしかしない壱琉に管理させたら荒れ放題になってしまう。  普通に大学生活を送っていた頃は、まだ良かった。が、前年、壱琉は某出版社の文学新人賞を受賞。その後、大学三年生のラノベ作家として華々しいデビューを飾った。  学生業の傍ら、締め切りに追われる宮城(けい)先生は、スケジュールと健康管理、生活環境の整備をチカに任せて執筆に励む日々だ。  今日のように、どこにやったか記憶が曖昧な資料ひとつ探すのにもチカに頼っている始末。  つまり、毎日がラブラブで順風満帆。言うこと無しな壱琉との関係なのだが。それにもかかわらず、スーパーへの道のりを行くチカの表情は晴れない。 「はあぁ……」  十日前に届いた資料の行方を壱琉に尋ねられた直前、盛大に苦悩していた時と同じ顔つきに戻っている。 「きっと今日も切り出せないよ。言えない。いっちゃんには。ああぁ、どうしようっ」  明朗快活が長所のチカだが、内心の苦悩に参っている。
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