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宣告・2022年3月4日
【2022年3月4日】
「大沢さん」
「はい」
「どうしてこんなになるまで…」
春先の明るい陽射しが差し込む部屋で
ため息混じりの
重々しい医師の言葉が胸に突き刺さる。
6年前の秋ーーーー
東京。
空は久しぶりの秋晴れで
遠く離れた島まで見渡せる程だったのに
その景色の中に溶け込めない
アタシの心は極寒の冬空の下に
裸のまま放り出された。
ーー真梨子、すまない。大成貿易の会長の孫娘と結婚するから、お前とは結婚できない。だから子供は堕ろしてくれ。
まるで事務報告みたいに吐き捨てると
そのまま背中をむけ帰って行った男。
着古した古着を捨てるように
アタシは捨てられた。
男の名は渋谷浩一郎。
あの時、アタシは29。渋谷は49。
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