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母親の葬儀を済ませたアタシの中は無になった。
全てが燃え尽きて真っ白な灰になった。
みんな居なくなった家の中は
静寂そのもので
唯一、居間の置き時計の秒針の音だけが嫌味に響く縁側で、在りし日のお母さんみたいに籐の椅子に座り、淹れたてのコーヒーの香りを楽しむ。
ーー真梨子、コーヒー飲む?新作の豆買って来たから。
ーー美味しいっ!
ーーそう言うと思った。
ーーさすが親子だね。
結局、あの男と同じ空の下で
同じ空気を吸うことさえ嫌で、
腹違いの兄がいるアメリカ西海岸の街、
シアトルの郊外にある
ベルビューに引っ越した。
ーーお母さん、ごめんね、これからアメリカに行きます。
お母さんの墓に報告して
旅立ったアメリカで
まさか余命を宣告されるなんて
思っても見なかった。
それもお母さんと同じ病気で。
ただ自分の人生をやり直したかった。
ただそれだけ。
アメリカに行った時、アタシの歳はすでに
32になる二ヶ月前だった。
まさかそんなにすぐに
自分の命が尽きるとも知らずに。
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