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2.ジャッジメント・デイ:9月9日
9月の前半の夜の9時過ぎ。僕は廃工場にいる。ガラスが割れた窓から月明かりが差し込み、広々とした空間を青白く照らす。外から聞こえる虫の鳴き声が心地好かった。ここは六甲山の麓にあるセメント工場だった場所だ。1991年以降のバブル崩壊の煽りを受けて閉鎖になり、阪神大震災で経営者が死んだことで完全に忘れられた場所になった。この土地は死んだ経営者の会社が今でも所有しているが、解体費や維持費が掛かるからか取り壊しの予定がなく、セキュリティも全くなくて管理が杜撰だ。地価が安いのも原因だろう。ここに僕達以外の誰かが訪れることはほぼない。
「ぶ─ど、どうしてなの? こんなことをするの?」
縄で身体を縛られた藤本聖子が力を振り絞って訊ねてくる。その顔は腫れ上がっており、打撲傷が幾つもあった。以前の整った美しい顔立ちは見る影もない。
僕がやった。
僕の足元には、ペンチやメリケンサックが落ちている。
「どう─どう、どうして、なの?」
「復讐ですよ」
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