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問い掛けに対し正直に答える。
「心当たりはありませんか?」
訊ねてみると聖子は、
「イジメて、ごめ、ごめんなさい。クビにし、クビに─」
「ハッキリ言ってくださいよッ! 聞こえないんすよッ!」
そう言い放って意地悪をする。
彼女は必死に大きく口を動かして、力いっぱい声を出す。
「イジメて、ごめんなさい! 朝山君を、クビにして、ごめんなさい! 赦して! 赦して、くださいっ!」
いい台詞だった。
だが、もう遅い。
ワン! ワン! ワン!
後ろのほうでポメラニアンが吠えてきた。聖子の飼い犬だ。イノシシなんかを捕獲するケージに閉じ込めてある。あの子のお蔭で彼女を誘き出し、車で誘拐することが出来た。
「それ以外にも何かあるでしょ?」
僕は訊ねた。さっきみたいな意地悪のつもりで訊ねていない。真剣な質問だ。
「他に何かないですか? 自分が会社で何をしてきたのか? 疚しいことたくさんあるでしょ? 他にも大きなことやらかしてるでしょ?」
「それ─そ、それは」
聖子が再び力を振り絞って何かを言いだそうとしている。僕は耳を傾けた。
「他の、人達の、ことは、朝山君と、関係ない、じゃない─」
もういいや、と思った。
手に持っていたカッターナイフを彼女の顔に振り下ろす。
恨みの雪はまだ溶けない。
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