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「朝山くうん。もう同僚じゃないんだから、さっさと出て行きなさいよ。邪魔よ。いい年した大人なんだから、それくらい分かるでしょお」
自分のデスクに戻ると、聖子が笑顔で言い放ってきた。その隣で、お腹が出っ張っている人事部長の宮根大貴が立っている。彼は笑顔じゃなかった。僕のことが心底嫌いなのだ。
彼等が口々に嫌味や悪口を言い放っていく中、デスクの傍にある青いゴミ袋からコート、バッグ、筆記用具等の荷物だけを取り出す。会社の書類やゴミと一緒に入れられるとは。
悪口や物を隠されるようなことは普段からあった。会社の人間じゃなくなった途端に、嫌がらせが大胆になるなんて。監視カメラの映像も消去されているんだろうな。
擁護するつもりはないが、関東本社ではこんなことはなかった。企画開発部で意見を言っても理不尽に怒鳴られることはなく、少なくとも存分に仕事をすることが出来ていた。
「いい加減にしてください」
後ろを振り向くと、係長の稀桜麻衣子さんが立っていた。同じ企画開発部の先輩だ。
「あらあ、稀桜さん。仕事はどうしたの?」
「森井社長がオフィスで待っています。新商品の試作品について訊きたいことがあるそうです」
「あら、わざわざありがとう。レディーとして言ってあげるけど、社会人の女性なら髪の手入れぐらい、きちんとやったら? みっともないわよ」
聖子は社長のオフィスへと向かった。
「まあまあ。朝山のことは俺からフォローしてあげるわ。せいぜい頑張って」
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