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不敵な笑みを浮かべる宮根は麻衣子さんの太腿を撫でて、その場を離れる。彼女は険しい顔のまま、
「言葉が見つからないわ。最低って言葉じゃ足りない。あたしのほうから関東本社に報告してあげるから」
麻衣子さんはそう言ってくれた。彼女は好き者の宮根が目を付けるほどの美人だ。聖子に負けない─僕からすれば1番美しい女性だ。そんな彼女の髪の毛には以前のような艶がなくなっていた。手足も細くなっている。
「麻衣子さん、またやつれましたか?」
「ふふ。失礼な男の子だね」
「心配してるんですよ。朝の8時から次の日の早朝まで働かされて」
「心配ないわ」
「心配です! 過重労働ですよ。残業代も出ていない」
「ちゃんと出たわよ」
「1週間分しか出てなかったじゃないですか! 残業は4か月も続いているのに」
沈黙が流れる。気まずさなんてどうでもいい。
「ねえ。僕はいいんです。麻衣子さん、この会社を離れたほうがいいですよ。転職してくださいよ。このままじゃ、死んじゃう」
「もう30歳を越えてるのよ。転職をしても家族を養える給料は貰えない。弟の治療費も払えない。分かるでしょ?」
麻衣子さんは微笑んで言った。眉間に皺が寄った悲しい微笑みだ。
「今、仕事を辞めるわけにはいかないの。解って」
彼女は言った。
心の枝は、まだ残っている。
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