香る音-b

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香る音-b

カーン カーン カーン キーッ ゴンッ 体が宙を舞った。 パタパタ ポンポン  夢うつつの俺は、雨の音が窓を打つ音を耳で拾う。昨夜、ゲームをしていて力尽きた俺は、パソコンを前に、机に突っ伏して寝ていたからか身体が痛い。少し腕に力を入れ、 手近にあるスマホを見ると、朝ご飯を作り出さないといけない時間を示していた。痛む 身体に鞭を打ち、身支度をし、朝食を作る。真っ白でつやつやした白ご飯、ワカメと豆 腐と揚げの入った味噌汁、ほうれん草のお浸し、葱とチーズの入ったオムレツを作って いると、目を真っ赤に腫らした夏希が台所に入ってきた。 「はよ。朝食できてるから、支度を早くしてこい。」 朝食をじっと見つめると、スッと出ていった。準備が整い、食後のコーヒーをいれて いると、夏希が身支度を整え戻ってきた。 「 お は よ う 。」 と小さく呟いた。 「食卓に、並べてあるから食べろ。」  夏希は小さく頷き、食卓に着いた。その後を追い、俺も席に着く。 「 い た だ き ま す 。」 夏希は無言のまま手を合わせて、食べだした。 パラパラパラ パタパタパタ 無言の食卓に雨音が響く。 「 マ マ の 味 だ ・ ・ ・ 。」 小さく零した言葉は、一筋の涙とともに夏希の頬を濡らした。 「学校、休むか。」 「・・・ううん。行く。ご馳走様。」 そう言って、席を立ったと思ったら、直ぐに家から出ていった。  それからは、俺にとってはいつも通りだった。大学に行き、講義を受け、友達と話し、帰りにスーパーによる。いつも通りだった。 いつも帰ってくる時間に帰ってこない夏希に不信を抱きながら、ご飯を食べていると、パーカーのポケットに突っ込んでいたスマホが鳴った。画面を見ると、祖母からだ。 「なっちゃんが、病院に運ばれたって、連絡があったのッ!すぐ出られる!」 「 分 か っ た 。 す ぐ 行 く 。」 スマホをすぐに切り、スマホと財布を握りしめ、家を飛び出した。祖母と病院に着くと、夏希は手術室の中だった。暫くすると、手術中のランプが消え、 医者らしき人が出てきた。 「なっちゃんはッ!なっちゃんはッ!」 「雨宮夏希さんのご家族ですか?」 「はい、そうです。夏希はどういった状況ですか?」 「大丈夫ですよ。頭に少し大きい傷があったため、傷を縫い合わせました。今は、麻酔で眠られています。受け答えはできておられるので、脳の影響はないように思われま すが、後日検査いたしますので、しばらく入院となります。」 「そうなんですね。分かりました。ありがとうございます。」 先生の言葉で安心した祖母は、膝から崩れ落ち、手で顔を覆い、 「 よ か っ た 。 よ か っ た 。・ ・ ・ ・ 。」 と、涙を零した。  警察に話を聞くと、二十代後半の女が犯人だそうだ。彼氏に浮気をされ、ヤケ酒をし、 その帰りの駅のホームにいた夏希が、その彼氏の浮気相手に似ているという理由で、駅 のホームから突き落としたのだそうだ。また、運転手の不思議な証言を聞いた。それは、 夏希が突き落とされる前に、駅の線路上に白いワンピースを着た女が立っていて、夏希 を病院に運ばれた後、その女の立っていた場所を見ると、香水の瓶が転がっていたとい うものだった。
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