交差

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交差

 私の子は普通には見えないものが見えているみたい。赤ちゃんの頃から、誰もいない 場所を見たり、何もない場所に手を伸ばしたりしているのをよく見てきたの。三歳にな った今も。  私と優希は母の家に来ている。優希は絵を描きながら、誰もいないのに友達と一緒に 絵を描いているように見える。 「ここはね。あおいろ?」 ・・・ 「あかいろじゃないよ。あおだよ。」 ニコニコした顔で話している優希を見ながら、リビングにいる私は、一緒にお茶をしている母に聞いてみた。 「お母さん、預けているとき、いつもこんな感じなの?」 「そうね。仏間や縁側に、一人でいるときはあんな感じよ。座敷童ちゃんと話している の か し らね 。」 母は何事もないような顔をして笑い、お茶を飲んだ。私は、仏間にいて、誰もいないのに会話をしている優希が、自分の子ではないように感じてしまった。  その気持ちをご まかすように、少し前から気になっていたことを聞いてみた。 「あっ、そうそう。この近くに交差点あるじゃない?信号ないとこ。」 「うん。そこがどうしたの?」 「隣町に行くために、昨日、そこの交差点を通ったのよ。通るときに、優希が『車と車がぶつかった。救急車来た。人死んだ。』って言ったの。でも、あそこの交差点って、 まわりは田んぼと畑だから事故が起きない交差点だよね。でも、『人死んだ』なんてい うからきになっちゃって。」 母の顔が驚きの色に変わっていた。 「あのね。実際、一か月前に事故があったのよ。確か、夜明け前くらいに。その時、 家の前の道路が騒がしくて、目が覚めたの。その交差点近くの家の人から聞いたけど、 事故を起こした人は近所の人らしいよ。救急車も二台来ていたらしいからかなり大きい 事故みたいね。車に乗っていた人はどうなったか分からないけれど、路面が凍っていて、 スリップしたみたい。街灯がなくて暗いけど、その時間であれば車通り少なく、慣れて いる道だから、スピードを出してたみたいよ。あなたも、気をつけなさいよ。車を運転 しているんだから。」 ストーブがついていて、暖かい部屋にいるはずなのに、背筋が凍ったように感じた。  母と会話をした翌日、事故で重傷だった運転手が亡くなったことが小さく新聞に載っ ていた。
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