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事件ファイル "MOTHER"
「お疲れさまです〜」
友田里紗がロッカールームに声をかければ、やまびこのように同様の言葉が返ってくる。
クローズ直後の21時。
大学生である他のバイト仲間には残りの店の片付けが残っている。作業が終わり次第ラーメンを食べにいくようで、スマフォ片手に店内で話し込んでいた。
高校生の里紗は一足先に店を出なければならない。
ワイワイと楽しそうな様子を尻目に、裏口を目指し歩みを進める。
…里紗もラーメン食べたい。
そんな食欲に対する悶々とした気持ちを抱えたまま、警備員に挨拶をする。
ショッピングセンターの一歩外に出れば小降りの雨が降っていた。
里紗の視界がどろどろとした何かで蝕んでいくようだった。
ここは人の陰気が蔓延る繁華街だ。道に捨てられた歪な形の臭いゴミ袋が散乱し、排水溝に吐瀉物が流れていく。
新宿はいつも負で溢れているような気がする。嫌いだ、この街が。臭くて醜くて汚いから。
胃からせり上がる吐き気を飲み込んで里紗は空を見上げる。それを見計らったように、視界に黒傘が入ってきた。
「里紗さん、あっちに車止めてますので」
真村という男の抑揚のない声とともに指差された先には、真っ黒なセダン。里沙は彼の後ろについていき、言われるがまま助手席に座った。
少しの間の後、運転席は真村で埋まる。
途端に、車内のアメスピの残り香が強くなる。
「ねえ、コンビニ寄って」
調子を取り戻した里紗は上目遣いを意識しておねだりしてみる。途端に真村の美しい顔には深い眉間のシワが寄った。
「目的は?」
「カップラーメン買いたい」
里沙の唐突な申し出に大きくため息をついた後、真村はアクセルを踏み込んだ。
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