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不破は校舎の入り口まで付いてきた。マンションの玄関先から学校の校門までメディア関係の人間が付き纏っている。昨日、里紗の顔写真付きでニュースが報道されたらしい。
しかし、不破の隣にいると逆に目立つ気がしてならない。175cmという高身長も整った容姿も、大衆の視線を集めるには十分だった。
それでも、従うしかない。
里紗は大人に守ってもらわなければ生きていけない未成年だ。
「今日はバイトないんすよね?17時に迎えにいきます」
「不破さん」
授業開始15分前の下駄箱は人で溢れかえっている。ひどい雑音の中でも里紗の声は鋭利さを保ったまま、直線で切り込んでくる。
「捜査はどうなってるの?お母さんは事故死で終わり?」
不破は一瞬だけ目を泳がせ、その後ぎこちない笑みを浮かべる。
「…まだ捜査中なんで、わかったら教えますね」
不破は隠し事が苦手らしい。そういうところも、マジでキモい。この女が嫌いだ。
里沙はそのまま教室には行かずに、保健室に直行する。
彼女の事情は学校中の人間に知れ渡っていた。
里紗はすでに先生達の同情を買い、シングルベッド一台の優先権を手にしている。
仕切りのカーテンを手慣れた仕草で引き、ベッドへと寝転んだ。ここは薬品の香りが充満しているから、身体中に付着した菌を殺してくれそうで、安心する。
アメスピの残り香とか、皿に用意された朝ごはんは、人の気配がするから苦しい。里紗は自分でも理解できない葛藤に苦しんでいた。
ひとりになりたいけど、独りにはなりたくない。
本音はどちらなのか、里紗にはまだ、わからなかった。
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