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南新宿署捜査一課大山班では、事件の洗い出しをおこなっていた。
先日、里沙の母親である友田浩美が死んだ事件だ。
自宅の寝室で遺体が発見された当時、腕には点滴が繋がれていた。吊るされた点滴袋からはヂアミトールが検出される。医療の現場では殺菌・消毒に用いられるものだった。
よって、状況から見て死因は事故死だと推測されている。
「本当に事故死なんですか?点滴なんて普通打たないし、他殺の可能性の方が高くないすか?」
スチールデスクに資料を広げていた大山警部は呆れたように大きな溜息をつく。
「不破、お前知らないのか。友田裕美。新宿区議会議員で『血液クレンジング』を推進していた政治家」
「血液クレンジング?」
「警部。アイツは絶対理解できないんでそのまま続けて大丈夫ですよ」
鼻で笑った真村に不破は肘打ちをお見舞いする。
2人の小競り合いには慣れている桜林は、2人の間に割って入り、不破にスマホの画面を突き出した。そこには、血液クレンジング協会のWEBサイトが表示されている。
「血液クレンジングは数百ミリリットルの血液を採取後、オゾンガスで浄化して再び体内に戻すことで、健康増進に効果があるとされる施術です。確かな効果があるかは不明。友田は議会で血液クレンジングの補助金制度を提案するほど熱心に取り組んでいました。
テレビやWEBニュースにしょっちゅう取り上げられてましたけど、不破さん本当に知らないんですか?」
「知らない。うち、テレビないしWifiも通ってないから」
ヘラヘラと笑う不破。桜林はそれ以上何を言っても無駄であることを悟る。警察内では、彼女が頭のネジが緩く、ほぼ筋肉でできた人間であることはすでに周知されていた。最近では呆れを通り越して謎の癒しを感じ始める者も出ている。
その中で、なぜか真村だけが不破に喧嘩を売り続けている。
「ジャングルにテレビもWifiもあるわけないだろバーカ」
不破にだけ聞こえるようにつぶやいた真村。すぐさま取っ組み合いが始まり、大山警部が2人の頭を書類で叩く音が、会議室に響き渡った。
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