始まり

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始まり

「よぅ引きこもり。寒くねぇのか」 「別に」 「パン食うか、ウチの特製パン」 「残りもんだろ」 「そりゃそうだけど。まぁ食え食え」 「…ふん」 そこまで会話してようやく顔を上げた名前も知らない男は、冷たい北風が吹き荒れ体の芯まで凍えそうな日でも、このマンションの階段の隅で、じっと俺の帰りを待っていた。 【お前とならばパンと玉ねぎ】 駅から徒歩10分でなかなかに洒落た外見の優良物件。それなりに大きなマンションだから、郵便受けが1階の受付を兼ねたロビーにある。一応オートロックのような造りにはなってるものの、そんなんまるで無視するかのように郵便受けには多くの企業、個人の広報がまき散らされていた。新聞や織り込みチラシ、宗教の勧誘にデリバリーサービスの広告…。 当然住んでる人間だって多種多様だ。お水の姉ちゃんに学者先生、リーマンがいれば、俺みたいなパン屋を開いたばっかりの若造…オプションで、階段に引きこもり。 俺の愛するパンサーズマンションA棟は、そんな感じので溢れている。
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