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それから男は、毎日といっていいほど深夜の工房で俺の手伝いをしてくれた。 2人きりだと気にならないのか、サングラスは付けたままだがだんだんと人並みの露出もできてきている。とはいえ衛生面の関係で帽子、マスクは必須なのだが。 「これ、もうちょいしっかり練って」 「…」 「あ、そんな感じで」 「…う」 「えーと、それ終わったら一旦休憩入っていいから」 「…あ」 「ん?なに」 「…いち」 「うん」 「……いち、ご」 「いちご?あぁ!もしかして吉田んとこから届いてた?冷蔵庫入れろってことか」 「う」 「半分は朝で使うから出して…あー、いいや休憩行きな」 「いや」 「出してくれんの?」 「う」 早口で短気な俺と口下手で引きこもりのコイツ…真鞘(マサヤ)は、意外なほど馬が合った。 要領は悪いが飲み込みの早い様子を見ると、どうやら経験値自体が少ないだけのようだ。1つ1つ丁寧に教えたら無言で真剣に取り組む様子がとにかく見ていて気持ちいい。 どちらかというと俺が軽口が高じてトラブルを起こすタイプなので、こうじっくり時間をかけて会話する方が安心する。 じっ、とこちらの様子を窺うその目は、意外と大きく黒目が小さい。キョトンとした顔は初めて見る。 まるで玉ねぎの薄皮を剥ぐように、毎日少しずつ新しい顔を見せてくれる。 「じゃ、いちご頼むわ」 「う」 「ありがとな、真鞘」 「……む」 ぎゅるん!と擬音が聞こえるほど人間離れした動きで裏に引っ込む真鞘。風圧でちらりと見えた耳が、熟れたいちごのように真っ赤に染まっていた。
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