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7
…と、調子に乗っていたのが運のツキ。
幸せとは山の頂のようなもので、一度登ってしまったら後は降りるだけなのかもしれない。あまりのジェットコースターぶりに俺はそう達観してしまった。
「…辞める?」
「…う」
「え!辞めちゃうんですか真鞘さん!真鞘さんいないと店長めっちゃ使えなくなるんですけど!」
「うるせぇ益子テメーは工房行ってろ。真鞘ちょっと話しよう」
「…いや」
「給料足りないか?それともシフトか?最大限お前の希望に沿うようにするから、な?」
「…ちがう」
「あ、人間関係だな。よし益子、クビ」
「えー!!??」
「ちがう、益子ちがう。俺が、自分で考えた」
「だからその内容を教えろよ。なぁ、なにを、なんで、いつ。」
「ちょ、店長…!!」
益子が必死で名を呼ぶのを聞き、そこでようやく俺は真鞘の肩を掴んで揺さぶっていたことに気づいた。
服に俺の指が完全に埋もれているから相当な力が込められて痛いはずなのに、真鞘は何も言わず、されるがまま。
だけど、震えているのが伝わる。
(俺が、自分で考えた)
俺の知らないところで真鞘は少しずつ変化していったのか。俺が何も見ないで、ただ現状に浮かれていた時に、こいつはなにを考えたんだろうか。自分の浅はかさに目眩がする。
まだ見せてない所があったのかよ。いやでも、出会ってまだ数ヶ月。知らない事の方が多いに違いないのに、俺は何を勘違いしていたのだろう。
「…また引きこもるのか?」
「ちがう」
「なんか新しいバイト見つけた?」
「う」
「そか。やっていけそう?」
「…わからない、けど、やる」
「んー…わかった。頑張れ」
「…あ、の」
「応援するわ。」
「もし」
「あー餞別やんねぇとな。なにか欲しいもんあるか」
「あ…いらない」
「んな事言うなよ。ま、なんか考えとくわな」
「…」
さ、店開けるぞ、と軽く流して、話を切った。
その通り、俺には店が最優先だからな。余計なことなんか考えないのが一番だ。
そう、言い聞かせるしかないじゃないか。
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