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ぼんやり座り込んだ階段は、真鞘がよく座っていたところ。
ここから、真鞘はどんな景色が見えてきたのだろう。この小綺麗な階段の段数を数えたのか、それとも視線を上に伸ばして暗い空の微かな星に見入ったのか。それとも、俺には見えない別のものか。
「見えねーなー。真鞘のこと、なんにも」
真鞘には、俺がどう映っていたのだろう。偉そうなパン屋の店長?いやでも兄貴風もふかしていたし、家では甘えまくっていた。
甘えまくっていた…そう、恋人のように。
「あぁ、そっか」
目の前が真っ暗になる。多分、真鞘は気づいていたのだ。俺の不躾なこの視線に。真鞘を見る時の俺の心臓の高鳴りに。真鞘に触れるときの下衆な感情に。だから、俺の元から離れた。
俺の唯一の欠点。性的対象が人と違うこと。
俺の世界は真っ暗で、寒くて、いつも冬のようだ。もちろん、誰にだって闇はあるし、はっきり言ってゲイなんて山ほどいる。でも人がどうとかではなくて、小さい頃から感じるこの圧迫感や底冷えするような感情は冬そのもので、しかも春には絶対になることはなかった。そう、俺こそ玉ねぎだ。何重にも薄皮で身を隠していた。寒くないよう、自分を大事に大事に包みこんで、隙のないように。
真鞘が来るまで。
「やっぱタイプだったかー」
タイプだから何だ、ノンケは論外だ、散々言い聞かせてるのにこれだ。
「俺ってダメなやつー」
「え…ダメ、じゃない」
「ダメダメよ俺なんか…んん!?」
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