3 だてんしってなんだ

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3 だてんしってなんだ

 悪魔くんは、堕天使とも呼ばれている。  その別名の意味を、悪魔くんは教えてくれない。  しつこく聞いたら、急にくるりとこちらを向いて 「キミはいい子だねえ」  そう言って、頭を撫でてくれた。  しばらく日本という国で活動しなさいと神様から言われた。  ぼくはすぐ日本語の辞書をひらいてみた。  日本語にも「てんし」ってあった。もちろん「だてんし」も。  ―――だ・てんし  とあるので首をひねる。  『てんし』、は分かる。  でも、『だ』って何だ?  そこに、悪魔くんがやって来た。 「ねえ悪魔くん。『だ』って何?」  ぼくは辞書を見せて聞いてみた。  悪魔くんは、ふむふむとしばらく読んでから、「教えちゃる」と、自信たっぷりに答えた。 「『だ』っていうのはな、『おーる・おっけー・いず・べりー・ないす』ちゅう意味や」  急にオオサカという所で見たおっちゃんみたいな口ぶりになった。 「分かるやろ?」 「分かんない。ぼくの知ってる英語の中でもそんなことばないし」 「しゃーないなあ」  いわく。日本語の名詞は、『だ』という文字がつくと、とたんにその物事にハクがつくのだそうだ。 「ハク?」 「価値ですよ、ヴァリューです」  きらりーん、と悪魔くんは、かけてもいない眼鏡の縁を上げるフリ。 「いいですか? ダガッキ、といえば楽器の王。ダソク、といえば貴重な特典。ダシノモト、といえば死にゆくニンゲンに『人生は素晴らしかった』と味わわせてくれる魔法の旨味調味料。そして、ダガシといえばこれ」  悪魔くんは、懐から茶色い紙袋を出して中から飴をひとつ出した。 「いつ、どこでも貴方を潤すちょっとした食料なのです」  ぼくは、飴をもらって口にほおばりながら、もしかしたら今度もだまされているかもって少し思った。  けど許しておこう。ちょっとしたお菓子ももらったしね。
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