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4 涙の色はなにいろ?
「悪魔くーん、あーそーぼー!」
悪魔くんの家の前。声をかけたけど、返事がない。
なんだ、留守なのかー。そう思って僕は帰ろうと振り向いた。
その時ちょうど、悪魔くんが、長くて細い抜き身の剣を引っ提げて、少し足を引きずるように帰ってきた。
むせかえるような血の匂い。
長いしろがねの刃は真っ赤に染まり、ぽたりぽたりと地面に滴を落としている。
最初は服が黒いから気がつかなかったけど、悪魔くんの腕も体も、黒い靴先までもべっとりと血で汚れていた。
悪魔くんが、剣をひと振り。
ぶ厚くかぶっていた血がびしゃりと落ちた。
伏せている白い顔に鋼が薄青く反射して、点々と跳んだ赤い染みが浮かび上がる。
「……すごい」
他に言うべき言葉が見つからない。
「すごい? 何が?」
目を伏せたまま不思議そうに尋ねる悪魔くん。
「赤い色が……すごい」
悪魔くんが、ふい、と顔を上げた。
その目は乾いていた。
「たくさんの命が、たくさんの命を互いに奪った」
何かを読み上げているような言い方だった。
悪魔くんは、怒っても笑ってもいなかった。
ただ、淡々としていた。
「正義の名のもとに。そしてどちらも、相手にオレの名前を冠して」
だから、手助けをしてやったのだ。どちらともに。
そう言って、剣を顔の前にかざした。
「そんなことが……あったんだね」
ぼくは否定も肯定もしなかった。
ただ、目から涙があふれた。
悪魔くんは、剣を真横に掲げたまま言った。
「それが涙ってやつか。水みたいなんだな」
うん、とうなずきながら、なおもぼくは泣く。
「しょっぱいんだよ」
「ふん。ヘンなの」
「悪魔くんだって、同じだと思うよ」
「オレは涙なんか出ない」
澄まして答えた悪魔くん。
「もし出るとしたらそれは、血の色をしているだろう」
そうなのかな。
ぼくはぼろぼろと、目からしょっぱい水を落としながら考えていた。
いつの間にか悪魔くんが、剣をぼくのあごの下に持って来て、その刃で涙を受けていた。
「悪魔くん……何してんの?」
「洗ってる」
悪魔くんは真面目な口調で答えた。
「エコだろ?」
どこまで本気か、ちょっとよく分からない。
ただ、しばらくぼくたちは、そうして立っていた。
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