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6 悪魔召喚
「ニンゲンたちがまた呼んでるな」と悪魔くんが言った。
「あーあ、魔法陣の描き方、また間違ってるね、悪魔くん」
「あの魔導書が間違ってんだ。早く改訂版買えって話だよ」、
ぶつくさ言ってるが、目はらんらんと煌めいている。
「人気者は辛いなあ」
近頃ヒマなぼくの方をニヤニヤ見ながら、悪魔くんは楽しそうに出かけていった。
「お土産はドーナツがいいかな? ぼうや」
「なんでもいいよ。いってらっしゃい」
ふてくされた言い方になってしまったけど、気にするもんか。
ぼくはテーブルに向かい合い、トランプでソリティアを始める。
いつものお茶の時間。
悪魔くん、なかなか帰ってこない。
ソリティアにも飽きたな。
それでもまだ帰ってこない。
何だか心配になるなあ。
暖炉の脇にある小さな鏡を覗く。
あ、地上が見えるぞ。
悪魔くんが、珍しく苦戦しているみたい。
……というか、ニンゲンにとっつかまってコテンパンにやられている真っ最中。
わあ、オリに閉じ込められてる。
しかも縛られてるし。ちょっと情けないない姿だよね。あ、電気あてられた。これはまずいかも。
……仕方ない。
ぼくは傍に立てかけておいた杖で床に『悪魔召喚@これ第一優先義務ね』の魔法陣を描く。
そして、杖を振り上げて叫んだ。
「悪魔よ、来たれ!」
黒いもやが、魔法陣の中にたち込める。
急にあたりが暗くなり、空気がひやりと冷たくなった。
少しずつ、少しずつ黒い人影が現れ、そして――。
「ぷは~~~っっっ」
悪魔くんはばったりと、魔法陣の上に倒れ伏した。
「だいじょうぶだった?」
ぼくが駆け寄ると、悪魔くんは大儀そうに仰向けになる。
鼻血が出ているので、袖で拭いてやった。
「……遅えよ、呼ぶの」
だっていつも、『ひとりでだいじょうぶ、いちいち見んなよ、ミセモノじゃねえんだからよ』って言ってるのは悪魔くんの方でしょ?
……と、言ってやりたかったが、ぼくは黙っていた。
代わりに、コーヒーを入れてあげたら、悪魔くんはそのまま床で飲んだ。
「……アイツ、悪魔だ」
ようやく落ちついたらしく、そうつぶやいている。
「魔法陣以外は完璧だったな。悪魔崇拝を装いやがって姑息なヤツらめ、俺を罠にかけようなんて……ザコどものくせに。小童どもめ。危うく滅ぼされるところだった」
「ザコや小童に滅ぼされそうになった、ってちょっと哀しいよね。プライドが傷ついたの? もしかして」
ぼくが意地悪な受け答えをすると、ちょっと傷ついたような目をしてこちらを見た。
「弱ってる時に、きっついよなオマエ」
「そうだ、悪魔くん。お土産は?」
あっ、て顔してる悪魔くん。ちょっと楽しみにしてたのに、忘れるなんて!
でもすぐに、真顔に戻ってこう言った。
「それよかさ、オマエの魔法陣も、描き方間違ってっぞ。書き順が」
どうしても魔法陣にはこだわる悪魔くんだった。
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