5人が本棚に入れています
本棚に追加
7 あんだーざれいんぼー
遠くの山の端に、うっすらと虹がかかった。
「あの虹のふもとに行こう」
ぼくは飛び出した。
悪魔くんも追いかけてくる。
「待てよ、なんでふもとなワケ?」
羽ばたきながら、ぼくはこたえる。
「いつも見てみたいと思ってたんだ、虹がどこから始まって、どこで終わっているのか」
「……知らねえぞ、オレは」
悪魔くんが、飛びながらそうつぶやいた。
虹に近づくにつれて、色合いはだんだんと薄くうすく、それは大気に溶け込んで、しまいには何も見えなくなった。
「あれ……」
きょろきょろと、七色の橋を探す。
悪魔くんは腕を組んでそっぽを向いている。
ふと下界を見下ろすと、そこでは三万人が死んでいた。
「あれは――」
悪魔くんが言った。
「――滅びの地だ。ちょっとしたいさかいがあった」
ぼくが何か言おうとしたら、悪魔くんは珍しく慌ててつけ加えた。
「虹を出したのはオレじゃないからな。別に見せようと思ったワケじゃない。それにアイツらは、お互いに殺し合ったんだ」
「そうなの……」
悪魔くんに言われなくても、わかってるよ。
ぼくは泣いた。
涙は大粒の雨のごとく、きらめきながら地上へと降り注ぐ。
「ねえ悪魔くん」
ぼくが泣きながら指さす下界を、悪魔くんも仕方ないといったふうに見おろした。
「なんだよ、泣き虫ケムシ」
「見て」
ぼくの降らせた雨のもとに、新しい虹がかかっていた。鮮やかに。
最初のコメントを投稿しよう!