仄暗い

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  私はいつも一枚のガラス越しに人々を眺めている。スーパーの食品加工室を清掃する仕事で、2時間で終わる内容を4時間かけて行っていた。清掃している間は誰にも話しかけられず、ひとりで水仕事を繰り返すばかりだ。   加工室と売り場はガラス一枚で隔てられている。加工室で何をしていようと、客は意外と見ていないものだった。   2時間たって大まかな仕事が終わると、私はまな板を洗う作業をだらだらと始める。適当に洗ってもばれないが、これが早く終わると面倒な作業を押し付けられる。ただブラシでこするだけの機械的な動きは疲れるだけだった。体は忙しいが、思考は暇を持て余しお得意の妄想劇が始まる。それにも飽きてくると、今度はガラス越しの客に視線を向ける。   いつも18時過ぎにやって来る夫婦は、今日も仲睦まじく並んで歩いていた。最近見るようになったカップルは鍋のコーナーで楽しそうに鍋のスープを選んでいた。   私とは違う生活を営む客たちの姿を眺めるのはなんとなくの暇つぶしになるのだ。   しばらく、ぼーっと眺めているとガラスを叩く音で現実に引き戻される。いつもの値下げを催促するおばあさんだ。私は私と客との隔たりを越えて、おばあさんに値下げはまだであることを伝える。
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