仄暗い

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  スーパーに来るまでの道のりがいかに大変だったかを熱弁するおばあさんを、私はどこか夢うつつで見ていた。怒っているようではなかったが、ただつらつらと垂れ流される文句に私は辟易する。   説明を繰り返し解放された私は、所定の位置に戻った。まるでプールに飛び込んだ時の様に私を包む空気が変わったように感じた。   そして似たような感覚に陥ったことがあるのを思い出した。私はその時、一人暮らしをするアパートに友人を呼び、二人で酒を飲んでいた。私はいつも通りくだらないことを言って、友人はさも楽しそうにそれを聞いていた。   ふと沈黙が降りて来て、なんとなく私たちはスマホをいじり始めた。友人は思い出したかのように彼氏の話を始めた。最近とてもうまくいっているのだと語る。それは良いことじゃないかと私も思った。そして彼女は「あなたは何かないの」と聞く。きっと恋愛の話がしたくなったのだろう。会話の中に独特の高揚感を感じた。   私には気になっている人がいた。相手から告白もされて、よく考えもしないで受け入れた。気になっていたのに、相手から好意を感じるとたちまち私の感情は嫌悪に変わった。彼はとても良い人だったし、別れた今でもその考えは変わらない。しかし、私に好意を持つ彼をどうしても疑い嫌悪してしまうのだ。どうしたらよいのか分からなかった。   彼のことを思い出し、私の中の高揚感はすっかりなくなってしまった。友人の恋の話はとても興味深く聞いていられるのに、自分の恋の話になると言いようのない嫌悪感に見舞われる。ガラス越しに見ていたのに、突然侵入された気分だった。   ガラス越しに見ている時は幻想として見ていられるのに、隔たりを失った瞬間に私は幻想の中から現実を探し出そうとする。幻想を愛しているくせに、自分がその中に堕ちていくのを恐れている。とても臆病で卑怯な生き方だ。それはとても悲しい生き方じゃないか。   
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