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3年が経って。
給料が上がり貯金も貯まった私は、もっと広い部屋へ引っ越した。
日当たりが良くて。
収納が多くて片付けがしやすくて。
窓辺に植物を置くスペースがあって。
広くて料理のしやすいキッチンで。
魔力が溜まりやすそうだった。
引っ越して数ヶ月が経った頃。
今でも時々、二人分のご馳走を作ってみる。
結局食べられていなくて。
悲しくなるだけだ。
あの日々は戻らないのだと。
悲しいけれど。
あの頃よりも健康になった私は、倒れ込むように眠ることもせず、夜が更けるのを見つめる。
映画でも見ようかと立ち上がり。
ふと本棚から日記が落ちた。
『この日記は捨ててください』
彼の字だ。
引っ越す前まで確かになかったものだ。
ここへ来てから書かれたものだ。
未練たらたらなのを心配されたのだろうか。
でも。
彼は私と一緒に来たのだ。
私の妄想だろうが別人格だろうが。
今もいるのだ。
どうして現れてくれないのか。
一気に寂しくなって。
『いやです捨てません』
そう書いて寝ようと思ったら。
パタンと。
ひとりでに。
日記が閉じた。
彼は今もいるのだ。
そして、どうやら実体を得た。
「私に触れて」
あの日のように。
涙が出た。
寂しくて仕方なかった。
誰でもいいからじゃない。
あなたに触れてほしい。
「眠って」
微かに。
耳元で。
囁き声がした。
私が眠ると。
その夢の力で実体化できる。
微睡みの中で。
私は。
くちびるに何かが。
触れるのを感じた。
終
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