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そう驚きの声を上げた雪乃だったが同情したのはほんの数秒だった。彼女の視線はすぐさま心愛の、ウエスト周りを三回折り上げ膝上まで露出したいつもより短いスカートへと注がれる。慌てて元に戻したが時は既に遅かった。
「それじゃぁ、触って下さいってお願いしているみたいじゃん。私みたいにジャージで来なよっ」
「嫌だよっ。女子高生だよ!
……、
あっ……」
体育系部活に忙しい雪乃からすると文化系部活に所属する『ゆるふわ女子高生』の様な生活など無縁の世界感。朝練、昼食後の昼ミーティング、そして午後の練習。週末は練習試合や遠征などでゆっくり乙女を過ごす時間など皆無だった。学校帰りの駅前通り、クレープを片手にショッピングに他愛も無い話を何時間もカフェを陣取り過ごす事など雪乃は一度も経験したことはない。
思わず零した言葉は二度と呑み込めない事を悟ると同時に耳に響く。
「どうせ私は引退するまでは女捨てているからね――」
「ごめんっ……」
「ふんっ。怒った、どうせ活動週に二回の化学部所属の理系女子様とは違いますからねぇっ。あぁ怖いっ、健気な小動物解剖したり変な薬とか作っていたりして」
「そんな事してないよぉ……」
困り顔の心愛をみて冗談だと雪乃はからかっていたが、優しい笑顔はふと消えた。
「それより、もうその車両乗らない方がいいよ。きっとまた狙われる」
「分ってるよ。でも……」
雪乃の忠告に従えない事情が心愛にはあった。
それは……、
どうしても譲れない一途な恋心。他校に通う名も知らぬ話した事すらない男子高校生、憧れの彼と一つの車両の中で過ごせる唯一の時間だったから――。
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