39人が本棚に入れています
本棚に追加
今日も寝る前に父さんと酒を酌み交わした。
明日にはNY向けになる。寝る前に父さんの積み木をまとめてキャリーカートに詰め込んだ。大事なものだ、俺の衣服にしっかり包んで持って帰ろう。
「タクミ、良いか?」
ノックと同時にアレックスが部屋を覗く。
「アレックス」
持ってきてくれた冷えたコークを受け取る、正直俺はまだ酒よりこっちのほうが良い。
「さっきじい様が車椅子無しで歩いていたな、驚いたよ」
嬉しそうに言うアレックスだ。
「きっと暖かくなるともっと元気になる。俺も早くまたここに来れるように頑張るよ」
「ああ、今度はミネも一緒だろ」
「もちろん」
今回は置いてきてしまったからな、次は絶対に一緒だ。
「タクミ、これを持って帰れ。ナバホラグだ」
小脇に抱えたそれを俺に手渡してくる。大きさは結構大きい。大判のバスタオルくらいだろうか。
「こんなに大きいものはかなり高価だろう?とても綺麗だし」
羊のことを調べた時にナバホラグの事も知った。羊毛を使ってのナバホ伝統の織物で、多くは土産物として普通に扱われている。さっきうちの女子たちの土産に手頃な値段の物は何枚か買ったけど、この大きさのしっかりした物はとても高価だ。
大きさやその出来によっては、工芸品というよりも美術品としての価値が高い物もある。
古くから作られているビンテージ物等は百万を超える物もざらにあるのだ。
「これは俺のおふくろが織った物だ、亡くなる前に」
ジェニファおばさんの?
「大きさ違いの物が三枚、俺とティファとタクミの分だ。一番大きな物はティファの嫁入り道具で、俺とタクミの物はこれと同じサイズの同じ柄だ」
受け取って広げて見る。伝統的なナバホ文様の素敵な物だ。これはとても手が込んでいて、織るのがかなり大変そうだ。
「ジェニファはいつかタクミがここに帰ってくると信じていた。きっと日本で元気に生きているんだと俺にもそう言っていたよ」
ジェニファおばさんが。
「そのジェニファが亡くなったあとにこのラグを親父から渡された。タクミの分も一緒にな、お前にこの家でそれを渡せることができて本当に良かったよ」
おばさんはティファがまだ三才のころに病気で亡くなったと聞いている。
ずっと俺が日本で元気でいると、信じてくれていたジェニファおばさんからのプレゼントか。
「うん、ありがとうアレックス。大事にするよ」
本当にずっと大事にしていく。
「それ、ジェニファの伝言付きだ、よく聞けよ」
伝言?
「『これをお前が好きになった人に心を込めて贈りなさい。そうしたらその人は、お前の事をずっと好きでいてくれるよ』だって。だからこれはミネにお土産だろ」
そりゃ、そうだ。
「分かった」
きっと美音が喜ぶな。笑いながらアレックスは部屋を出ていった。
こんな立派なナバホ・ラグ。これも大事に持って帰ろう。
同じ物をアレックスも持っているって事か。ジェニファおばさんもアレックスの嫁になる娘を見たかったに違いない。
アレックスはそれをどんな娘にあげるのかな。俺も教えてもらう日を楽しみにしておこう。
伝統的な文様のナバホラグ。
最初のコメントを投稿しよう!