出会い

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出会い

10年前の12月12日 図書館は大きな窓から暖かい日が差して 職員が白いブラインドを落としていた。 團亮はテーブルの脇に重ね置いた本を読み 多くの受験生が辞書を調べながら真剣に勉強をしていた。 向かいに席にはいつも顔を見かける女子高校生と 目が合いそのたび毎に女子高生は微笑みかけていた。 「あのう・・・」 後ろからその女子高生が亮に恐る恐る声をかけた。 「はい」 「古文の勉強しているんですか?」 女子高生はテーブルの上の本を見ていった。 「あっ、はい」 「古文は得意なんですか?」 「まあ、それなりに・・・」 亮は邪魔をされるのが面倒だった。 「ムサシ高校の人ですよね」 「ええ、あのう。ここは図書館なのでお話は外で良いですか?」 亮はテーブルの上の物をそのままに女子高生を室外に誘った。 女子高生はニッコリと笑って亮の後を付いて行くと 後ろから二人の女子高生がそれを見て笑っていた。 図書館の中の飲食が出来る部屋では数人の人が テーブルにパンと牛乳を置いてのんびりとしていた。 亮と女子高生が椅子に座ると亮はまるでお医者が 患者を診る様子でとても17歳の高校生に思えない 言い方をした。 「どうしました?」 「私、北川沙織といいます。東島女子高校の3年の」 亮は名前を告げられて自分が名乗らない訳にもいかなかった。 「團亮です。僕も3年生です。ムサシ高校の・・・」 「大学はどこを受験するんですか?」 沙織は顔を亮に近づけて真剣な顔で聞いた。 「普通に東大ですけど」 「すごい!東大だと・・・」 「理Ⅲ、医学部です」 「じゃあ、理数系得意ですよね」 「はあ、国立大学なので普通に何でも」 亮は男子校なので女子高生には慣れておらず 沙織が迫ってくるようで苦手だった。 「今度勉強教えてくれませんか?」 東島女子高は偏差値70の優秀な高校で 12月の今頃の時期、1月中旬のセンター試験の 勉強を教えてくれという質問が不思議だった。 「ええ、分からないところが有ったらどうぞ」 「ありがとうございます」 「でも、さっき古文の勉強をしていましたよね」 沙織はセンター試験で1問しか出ない 古文を熱心にしている亮を不思議に思った。 「ええ、頭休めに」 「頭休めに古文ですか?」 「はい、国語と日本史は頭休めです」 沙織はちょっと変わっている亮に躊躇したが思い直して、 ニッコリと笑ってメモを渡した。 「これ、私の携帯番号とメールアドレスとLINEです」 「ああ、分かりました。後で僕のアドレスを ショートメールで送ります」 北川沙織は立ち上がり長い髪をたらして亮に頭を下げて こっそりと覗いている二人の所へ 行って手を合わせてはしゃいでいた。 ~~~~~~~~ 「どうだった、沙織?」 中学時代のからの親友秋山良子が心配そうに聞いた。 「うん、メルアド受け取ってくれたよ」 「やった!」 同じ中学の同級生岩倉弓子は内気な 沙織の代わりに亮の情報を収集していた。 「やっぱり弓子の言っていた通り、東大受験するんだって」 「だって凄く頭よさそうじゃない、いつも黙々と勉強しているし」 「名前は?」 良子が聞くと沙織ははしゃいで言った。 「團亮(だんあきら)だって」 「きゃー、團なんて凄く金持ちそう」 良子が沙織の肩を叩くと弓子は自分の情報を沙織に伝えた。 「思い出した!目白に團さんと言う、お屋敷があった」 「そこの息子だったりして」 良子がニヤニヤと笑った。 「そんなに金持ちなら、図書館に来ないで 自宅の書斎で勉強しているわよ」 沙織が自分の喜びを抑えるように言った。 「そうよね」 良子も不思議に思った。 「彼、付き合っている女性がいないのかしらイケメンなのに」 「意外といないかも暗そうだし」 弓子が言うと沙織が納得した。 「うん、暗そうだった・・・」 ~~~~~~~~~~ 亮が家に帰ると姉の千沙子が驚いて亮に聞いた。 「あら、早いわね。亮」 「うん、勉強の邪魔された」 「また、古文書の解読?」 「うん、いっぱい資料があるから図書館は 便利なんだけど・・・姉さんは?」 「私はこれから着替えてモデルの友達と飲みにく  一緒に行く?」 「受験生を誘うなよ!今日女子高生に連絡先を渡された」 「あらまた、付き合っちゃえばいいのに」 「面倒だよ、受験も近いそんな場合じゃないよ」 「亮は自信がないんだ」 「いや、この前のテストでは合格率100%」 「そっちじゃないよ、女の子の方」 「だって話題がわからないんだ」 「あなたは気を使いすぎ、女の子は勝手に 話をしているから。 どう思うと聞かれた時、答えればいいのよ」 「さてさて、クリスマスの相手探さなくちゃ」 「まだ決まっていないの?」 「それがさ、優秀な弟を持つと比べちゃうんだよね、このイケメン」 千沙子は亮の頬を叩くと二階の部屋に上がっていった。 「ああ、お帰り亮さん」 母親の久美が優しく言った。 「ただいま」 「亮さん、今夜は何を食べたい」 亮は冷蔵庫を開けて探し物をした。 「まだ5時だから僕が作るよ。 今夜も二人で食事になりそうだから」 「じゃあ、また得意の薬膳料理?」 「あはは、もうパクチーは入れませんよ」 「よかったわ、私あれ苦手なの」 久美はニコニコと笑った
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