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ワタシは、目の前に置かれた "コレ" をはじめて見る。
赤くて、まるいもの……
一体、何だろうか?
この土地で暮らし始めて、3日が経とうとしている。
一緒に住んでいる『さとうさん』は、とても優しい。
その日の夜、食事を済ませたあとのこと。
さとうさんに「準備するからちょっと待っててね」と言われた。
ワタシがこの土地の言葉を理解できるのは、特別な翻訳機のおかげである。
ワタシが待っていると、さとうさんは、
"赤くてまるいもの"
(以下、 "コレ" または "ソレ" と言おう)
を持ってきた。
――コレは何だ?
さとうさんがほかに用意したのは、
少し厚みがある長方形のもの。
この土地ではこれを『まないた(まな板)』というらしい。
それと、
短い棒みたいなものに、平べったくて先がとがった銀色の何かが付いたもの。
この土地ではこれを『ほうちょう(包丁)』というらしい。
さとうさんは、まな板の上にソレを置き、包丁の棒の部分を手に持って構える。
そして、ソレの上に垂直に立てた包丁を下に下ろした。
半分にわかれたソレの内部は、うすく黄色がかっていた。
中心には、黒っぽいような茶色っぽいような小さなまるいものもある。
――はて、コレは何に使うものなのか?
さとうさんは、半分にわかれたソレをまた半分にした。
さらに半分に。
そして、ソレをひとつ手に取り、黒っぽいような茶色っぽいような小さなまるいものが付いた部分のまわりを、包丁をうまく使って取り除いていく。
さらに、包丁をすべらせるようにして、うすい赤い部分だけをこれまた器用に分離させていく。
ほかもすべて同じようにした。
その作業が終わると、ソレらを、主に食べ物を置くための浅い器の上に乗せた。
この土地ではこれを『さら(皿)』というらしい。
さとうさんは「どうぞ」と、ソレが乗ったその皿をワタシに差し出してきた。
ワタシは、どうすべきかわからず、さとうさんに同じように返した。
「どうぞ」
「じゃあお先に」
と、さとうさんは、皿の上のソレをひとつ手でつかみ、口に運んだ。
ワタシは、おどろいた。
さとうさんは、口の中でソレをくだいている。
そして、飲み込んだ。
「おいしいよ、これ。はやく食べな」
――な、なるほど……。
ワタシは、ようやく "コレ" が食べられるものなのだとわかった。
ワタシは、その食べものを、さとうさんと同じように手で持ってみる。
なんとも言えない感触。
少し冷たくて、水っぽさがあり、かたいと言えばかたいが、ガチガチではなく、フニャフニャしてるほどやわらかいものでもない。
そして、おそるおそる口の中に入れてみる。
それから、思いきりかみくだき、飲み込んだ。
――なんと……!
悪くない。
これはなかなかのものだ。
甘いような酸っぱいような感じだろうか。
表現するのが難しいが、不思議と食事のあとでもどんどん食べられるさっぱりした味だ。
この星には、こんなにも面白くて素晴らしい食べものが存在していたとは。
ほかの星でも、つくれるだろうか。
みんなにもぜひ食べさせてやりたい。
ワタシたちの星には存在しない、
"リンゴ" とやら。
おそるべし。
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