ゼロの裏に隠されたひとつ

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ゼロの裏に隠されたひとつ

  初めて人を殺した。    何事も初めては失敗するという。    ほら、初恋は実らないとか。  あとさ、失敗は成功のもと、とか。  よく言うでしょ。  最初はみんな失敗するんだよ、だから失敗していいんだよ~とか。  そういう名言って、いっぱいあるじゃん。  だけど、この「初めて」だけは失敗しちゃいけないやつだよね。  だって、この〝初めての人殺し〟を失敗したら、これから先の僕の人生が終わるんだもんね。    ようやっと、殺せたのに。    これから先の僕の人生が、これでようやっと薔薇色になるっていうのに。    まだ邪魔するんだなぁ、こいつ。    でも大丈夫。  僕ならできるさ。  バレずに生きていけるさ。  だってちゃんと殺すまで全てが計画通りだったし、誰にも見つからずにきちんと最後まで処理できたんだから。    それに初めて人を殺した人で失敗しなかった人だって、いるはずなんだから。  そうじゃなかったら日本の行方不明者の年間八万件のうちの未だに見つからない一四パーセントの人間のうちの数パーセントくらいは、何らかの形で見つかってるはずじゃないか。  きっと、その数パーセントは、また殺人事件にすらなっていないけど、じつは殺されちゃってる人だって含まれているんだろうから。  全てが解決しているのなら、この世に未解決事件なんか、ないはずなんだから。    失敗した人が捕まっているわけだから、手元にある成功例の完璧なデータはゼロだ。  でも、ゼロだからといって、ゼロとは限らない。    僕の初めての人殺しは、果たしてゼロの裏に隠されたひとつになるだろうか。    あーあ。初めてだから、よくわかんないなぁ。
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