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夢に出て来た神様
「お主の願いを一つだけ叶えてやろう」
三十二歳の誕生日を迎えたその日、田川壮太の目の前に突然、真っ白なカーテンのような布に覆われた老人が現れた。
「なんや突然。あんた一体誰?」
「わしか?わしは神様じゃ」
田川はその言葉を一切疑わず歓喜した。それもそのはずである。今、田川は夢の中にいるのだから。実際夢というものは、どんなに現実離れしていても、見ている間はそのシチュエーションを信じて疑わないものだ。
「本当になんでもええのか?」
「疑い深い奴じゃな。なんでもいいと言っておろうが。ただし、一つだけじゃぞ。叶える願いを増やしてくれなどという姑息な事は一切禁止じゃ」
田川は目を輝かせながら、それでもある疑問を投げかけた。
「なして願いを叶えてくれるんや。いい行いをした覚えもねえし、誰かを助けたとかって記憶もねえんやが」
「ほっほっほ。実はの、わしは年に一度、主ら人間の中から一人だけを無作為に選んで願いを叶えてやっとるんじゃよ。世界各地で語り継がれておる『キセキ』とやらのいくつかも、実はわしが願いをかなえてやった結果じゃったりする」
その言葉に、田川の表情が少し曇った。
「俺はそんな大それた事をやったろうっつう思いもなければ、そんな環境にもいねえんだが」
「心配せんでもいい。誰もがそうという訳ではない。そもそも年に一度そんな『キセキ』が起きたらありがたみもあったもんじゃないだろう。ほとんどの人間は自分の欲を叶えとる」
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