生徒として

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生徒として

私、梅津 咲良は無事、その高校に入学した。 年齢は1個下の子達と一緒に授業を受ける日々。 多くはないが友達もそれなりにできた。 大人しめのグループだ。 ひっそりと私の2度目の高校生活は始まった。 その中で1番の楽しみは...。 「おーい、もうおしゃべりするな。授業始めるぞっ。」 そうぶっきらぼうな言葉から始まる古澤 (たける)先生の授業だった。 あの一目惚れした男の人はここの高校の先生だった。 それが古澤先生だ。 科目は男子の体育と保健体育、そして3年生の副担任だった。 私のクラスの保健体育を担当してくれたのはホントに奇跡だった。 そうじゃなきゃ接点が全くないところだった。 3年生の教室は3階。 1年生の教室は2階。 普段の学校生活で古澤先生を見ることは週に2,3回ほどだ。 だから 真正面から古澤先生の顔を堂々と見れる、週に2回の保健体育の授業は私の何よりの楽しみだった。 「たけるーん、授業に遅刻してるよー。」 「俺の長い脚なら間に合うと思ったんだけどなぁ。」 「なにそれーっ。」 ギャルの生徒からは"たけるん"と呼ばれている。 私は...死んでも呼べないけど。 「古澤先生、血液型何?」 「俺は天才肌のB型だ。いいだろ。」 「お前らおしゃべりはいい加減にしろよっ!!あと、携帯も見るなっ!!」 26歳で生徒と歳が近いことから、生徒からは舐められてる...もとい親しまれている。 とにかく自信たっぷりな態度はまるで同じ高校生のようだ。 尊大な態度をとったと思ったらいきなり、大声で怒り出す。 先生としての威厳を出したかったのだろう。 彼はまだ教員試験に合格していなかった。 非常勤というものだろうか...。 その焦りもあってたまに先生らしく振舞っていた。長くは続かないけれど。 保健体育の授業自体はわかりやすいとは言えなかった。 まだ不慣れなのだろう。 だけど、一生懸命話を聞きノートをとる。 古澤先生に優等生として見られたかった。 あと...下心もあった。 授業終わり...。 ギャルやチャラい男の子たちが古澤先生のところに群がって喋っている。 大抵はくだらないことだ。 そんな中、私は1人後ろでじっと待っていた。 みんなが立ち去るまで、でも休み時間がまだあるタイミングで声をかける。 これが唯一、古澤先生と話す機会だった。 「あの、古澤先生。」 「どうした?梅津。」 「さっきの授業で書き取れなかったところがあって、こういう意味で大丈夫ですか?」 「あぁ、そうだな。それで大丈夫。」 「わかりました。ありがとうございました。」 これが私の精一杯だった。 保健体育の質問なんて本当はほとんどない。 教科書にほとんど書かれている。 それでも...。 私はどうしても古澤先生と話したくて授業を集中して聞き、些細な疑問を見つけるという姑息な手段を使った。 本当は理解しててもわざわざ聞きに行ったりもした。 そうしてでも、私はこの人に近づきたかった。 そうやって約半年が過ぎていった。 日課のジョギングをしながら古澤先生のことを考える。 どうしたら近づけるだろう。 私の心の中は古澤先生で満たされているのに、近づけないもどかしさが身を焦がしそうだった。
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