心から溢れる

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心から溢れる

教室に2人きり向かい合う。 夕方になる前の時間帯。 少し薄暗い教室。 でも、古澤先生の顔だけはしっかり見えた。 「それでどうしたんだ?改まって。」 「えっと。あの。その。えーと...。 私...その...古澤先生のことが好きなんです。」 言った。 言ってしまった。 迷惑だとはわかっていた。 でも、この思いは既に私の気持ちの許容量を超えていて溢れ出したのだ。 伝えずにはいられなかった。 「え、その...。マジで?」 「マジです。」 「だって、全然そんな素振り。」 「バレンタインあげました。」 「いや、本命なら手作りだろ...。そうか...そうか...付き合うことはできないけど好かれてるのはうれしいよ。」 「好かれてるのはいいんですか?」 「うれしいよ。」 「好きって伝えていいんですか?」 「まー、うん。」 「好き。好き。古澤先生好き。大好き。」 「あー、いつから俺のことを?」 「入試の日に一目惚れしました。」 「そんな前からか。入学して俺がいなかったらどうしたの?」 「会えたから...そんなこと考えませんでした。」 「そっか。でも、絶対お前が大人になったら同年代の男がいいってなるんだぞ。 前に告られたヤツも大学生になったら彼氏連れて会いに来た。」 「やっぱ、生徒に告白されたことあるんですね。」 「いや、そこじゃなくて...。」 「私は先生のこと大学生になっても大人になっても好きって言い続けます。」 「ホントか?」 「ホントです。こんなに好きな人にはもう出会えません。 好き、大好き。古澤先生、大好きです。」 目を見て心から溢れ出した好きを伝える。 「...ありがとう。」 先生は照れたように一言つぶやいた。 その後日が落ちるまで古澤先生の話を聞いた。 好きな映画や子供の頃の思い出。 その時間だけは先生と生徒ではない男と女だったと思ってる。 結局、付き合えないけどメールだけはしてやるということになった。 終業式後にアドレスをもらうことになった。 翌日。 食堂で友達とお弁当を食べていた。 1年生から3年生までいたけどみんな大人しいグループだ。 そこへ乱暴に扉を開け入ってくる人物がいた。 「梅津いるか?」 「えっ、はいっ!」 古澤先生がこちらに向かってくる。 なんで?どうして? そんな思いが頂点に達した頃だった。 「はい。コレ。お返し。」 思考が追いつかなかった。 正気に戻ったときには古澤先生は出ていっていた。 「フーっ。」と周りから冷やかす声が聞こえる。 「今のはかっこよかったね。」 「羨ましい。」 そんな声が聞こえてくる。 やっと状況が飲み込めた。 私にバレンタインデーのお返しを渡すためにわざわざ。 みんなの前で。 とてもかっこよかった。 とても好きだと思った。 (意図してたわけじゃないけど...昨日告白したのはよかったかも。) 淡い期待が心に灯る。 今後メールをする中でがんばって好きになってもらおう。 叶うはずのない願いを胸の中に宿した。
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